肝斑は特殊なしみ
目次
肝斑の特徴
肝斑は特殊なしみであり、他のしみと特徴が異なります。
肝斑の特徴は以下の通りです。
①強い刺激(レーザー・紫外線・摩擦・炎症など)で強い色素沈着を起こす性質を持つ
②体質的な面が強く、治療による完治は難しいが、その反面、自然に寛解することもある
③ホルモンや体調により濃くなったり薄くなったりする性質を持つ
肝斑の原因や病態については、多くのメディアで解説されていますが、実際のところは不明です。
紫外線、こする刺激、肌の炎症、ホルモンなどあらゆることが悪化因子になる可能性があるといわれています。
30代以降の女性に多いですが、稀に男性でも肝斑のようなしみが見られることがあります。
イラストのように頬上部に左右対称に出現することが多いですが、他の部位にもできます。
下まぶたのエリアを避けることが多いので、サングラス焼けの跡のように線状(帯状)や三日月状に見えることが多いです(普通のしみは丸いです)。
原因や病態が不明(⇒原因を除去できない)なので、完治させるのは難しいですが、治療により改善させることは可能です。
治療は、悪化因子を避ける生活習慣の実行、レーザー治療や光治療、ピーリング治療に内服を併用するのがベストだと考えています。
【肝斑の正体は?】
長年、臨床の現場でたくさんの肝斑を診てきた上での結論は「体質」です。
部分的な色素細胞(メラノサイト)の体質的異常ではないかと考えています。 何らかの原因により、色素細胞がさまざまな刺激に対して通常より敏感に反応し、メラニン色素を過剰産生する状態だと考えています。
悪化因子となる刺激には、内的要因(特に女性ホルモンなど)や外的要因(紫外線・摩擦・炎症など)があります。
体質なので、明らかな原因はなく、自然と発生し、また自然となくなることもあるのです(急に花粉症になったり、治ったりするのと似ています)。
肝斑は「何が悪い」というものではなく、「仕方ないもの」として、うまく付き合っていく必要があるのです。
以上は、経験からの推測であり、科学的に証明されたものではありません。
そもそも、肝斑で有名な内服薬「トラネキサム酸」でさえ、その有効性は確実視されていますが、作用機序が科学的には証明されていません。
【潜んでいる肝斑はすべての治療のリスク?】
肝斑の特徴のひとつが色調の変動です。
他の種類のしみ、たとえばそばかすや老人性しみも多少の色調変動は見られますが、肝斑ほどではないと考えています。
肝斑は、色調の変動が大きく、濃くはっきり出ているときがあれば、明確な肝斑と認識できないほど薄くなるときもあります。
認識できないほど薄くて見えなくても、肝斑がないわけではなく、いわば「潜んでいる」状態と言えます。
しみのレーザー治療や光治療において、特に注意が必要なのがこの「潜んでいる」肝斑なのです。
前述したとおり、肝斑は強い刺激で濃い色素沈着を起こす性質があります。
治療の種類やその加減によっては、肝斑にとって強い刺激になりえます。
肝斑の存在を認識できれば、過度に刺激しないよう注意して治療を行いますが、認識できない場合がリスクとなります。
潜んでいた肝斑が治療の刺激により濃く出てくるのです。
このリスクで痛い目にあったことのある医師は相当多いはずであり、肝斑を見れば積極的な治療を敬遠したがる医師が多いのはそのせいです。
「私、肝斑ありますか?」日常診療の中で、患者様がよくされる質問です。
濃く出ている状態の典型的な肝斑であれば、誰が見ても分かります。
しかし、肝斑として認識できるような色素斑が全くない場合でも「完全にない」とは言い切れないのが難しいところです。
肝斑の治療~肝斑は治せるのか?
肝斑の治療目標は、色素沈着を改善し、良い状態を維持すること
肝斑は原因不明の「体質」だと前述しました。
体質である以上、自然と完治することはあっても、治療によって完治(=体質を変える)させることは難しいです。
完治させることは難しいので、肝斑の治療は「対症療法」だと言えます。
蓄積している色素をなるべく薄くして、見た目を改善させること、改善した状態が再び悪化しないように管理することが目標です。
対症療法なので、一時的には改善されても、再発する可能性はあります。
ただ、実際には現状の見た目の改善と共に、診察時に行う日常生活指導や内服治療で、かなり良好な状態を長期間キープすることが可能です。
根本的な治療ではなくても、治療する価値は十分あると考えています。
当院の肝斑治療
薬剤治療+レーザー・フォトシルクプラス・ピーリングなどの併用
日常生活の中で、悪化要因となる刺激を避けること
治療はシンプルで、肝斑が濃くなる要因(メラニン色素の産生)をできるだけ除去し、薄くなる要因(メラニン色素の分解や代謝排泄)を増やします。
患者様のご希望や肌の状態によって、最適な治療プランを選択します。
【メラニン色素の産生】を抑える
トラネキサム酸やグルタチオンの内服
ハイドロキノンなどの美白剤の外用
悪化要因となる刺激を避ける(日常生活指導)
【メラニン色素の分解や代謝排泄】を増やす
フォトシルクプラス
ヤグレーザー
ピーリング(ミルクピール、マッサージピール、リバースピールなど)
トレチノインなどの外用
肝斑の治療で大切なのは、治療の種類ではなく、治療の加減・やり方です。
どの機器・薬剤を使用するにしても、やり方によっては、強い炎症を起こしてしまい、肝斑を薄くするどころか、逆に濃くしてしまう可能性があるため、特別な注意が必要です。
肝斑に精通し、絶妙な加減ができることが絶対条件です。
また、日常生活での注意も欠かせません。
代表的な悪化要因であるホルモンをコントロールするのは難しいですが、それ以外の悪化要因は患者様ご自身の努力により回避可能です。
普段からUV対策をし、患部を強い摩擦や炎症から守ることはとても大切です。
【肝斑にレーザー治療は禁忌なのでは?】
すべてのレーザー治療が禁忌ではありません
レーザー治療といっても、たくさんの種類があります。
一般的に、肝斑に禁忌とされているレーザー治療は、「しみ取りレーザー」としてのQスイッチレーザーなどを指します(当院だとQスイッチルビーレーザー)。
これらのレーザーは、メラニン色素に強く反応し、しみを除去しますが、肌に強い炎症を起こすため、肝斑治療には向きません。
また、しみ取りレーザー以外でも、治療により強い炎症を起こすレーザーは同様に禁忌といえます。
肝斑治療に使用するレーザーや光治療に期待するものは、強い炎症を起こさない範囲内でメラニン色素をマイルドに分解すること、代謝を促進してメラニン色素の排泄を促すことです。
ただし、肝斑に安全とされているレーザーであっても使い方によっては、肌に炎症を起こし得るため十分な注意が必要です。
「肌に炎症を起こさない程度に出力や反応を調整しつつ、効果を出す」この見極めには相当な経験が必要です。
【トラネキサム酸は肝斑治療において健康保険適応?】
保険適応はありません
トラネキサム酸の保険病名(保険適応が認められる疾患名)に肝斑はありません。
したがって、当院では肝斑治療にトラネキサム酸内服を用いる場合は自費診療となります(1か月2000(税込2200円)~3000円(税込3300円)程度)。
トラネキサム酸を保険で処方されている場合は、湿疹や薬疹など架空の病名を勝手につけている場合がほとんどだと思います。
このような行為は健康保険の不正請求と言えるため、当院では一切しません。
当院には、「罰則が厳しくなければ、不正をしてもよい」という考えはありません。
健康保険の財源は、保険料を払っている国民のものであり、それを自己都合で自由に使える裁量権は誰にもありません。