ADM(後天性真皮メラノサイトーシス、遅発性太田母斑様色素斑)の治療
目次
ADMとは?ADMの特徴
ADMは、後天性真皮メラノサイトーシス(Acquired Dermal Melanocytosis)の略です。 名前がとても長く分かりにくいので略してADM(エーディーエム)と呼ばれています。 太田母斑に似ていたことから遅発性太田母斑様色素斑と呼ばれることもあります。 明らかな原因は不明ですが、通常はしみが存在しない皮膚の深い部分(真皮)に色素沈着と色素細胞が見られるため、「アザ」と呼ばれることもあります。 頬上部に左右対称に出現することにより、好発部位が似ている肝斑やそばかすと間違われているケースをよく見ます。 肝斑やそばかすとの違いは、出現年齢、色調、形、分布などで、典型的なADMだと見分けは容易ですが、ときにそばかすや肝斑と混在していることもあります。
【出現年齢】 ADMの多くは20歳前後から出現します。 そばかすは幼少期から、老人性しみや肝斑は20代後半から、太田母斑は遅くても思春期までには出現します ので、他のしみやアザと発生時期が異なります。
【色調について】 しみやそばかす、肝斑は茶褐色(明るい茶色)に見えます。 これに対して、ADMはくすんだ(彩度の低い)色調の場合が多いです。 明るい茶色ではなく、グレー~若干青みを帯びた独特の褐色をしていることがほとんどです。 これはメラニン色素の存在する層が深いことを表しています。 この特徴はファンデーションを塗ったときに特に強調されるように思います。 「素肌だと褐色のしみに見えるが、お化粧するとグレー~紫っぽく見える」 このような場合、ADMの可能性が高いと言えます。
【形・分布について】 ADMは頬上部外側や小鼻では斑状、目の下では帯状のことが多いです。 肝斑は帯状や地図状であり、斑状になることは少ないです。 そばかすは、小さな斑状であり、頬上部~鼻にかけて拡がった分布です。
ADMは太田母斑ではない!
老人性しみやそばかす、肝斑などのいわゆる「しみ」は、表皮(皮膚の浅い層)に色素が異常に沈着した状態です。 通常、色素細胞は、表皮の一番深い部分(基底層)に存在します。 しかし、ADMの場合は、表皮ではなく、より深層の真皮に色素細胞が見られますが、この理由は明らかになっていません。 似たような状況は、太田母斑などのいわゆる「青あざ」で見られます。 そのため、ADMは「あざ」の扱いを受けていることが多いです。 実際に、ADMは太田母斑(青あざ)と同一視されていたという過去があり、現在でも「遅発性太田母斑」と呼ばれる場合がありますが、正式には「遅発性太田母斑様色素斑」であり、まったくの別物です。 太田母斑は、ほとんどが片側性で、三叉神経第1・2枝支配領域に発生するという大前提がありますが、ほとんどが両側性であるADMには当てはまりません。 発生部位や発生年齢、特徴など、臨床的には一致するものがほとんどなく、ADMと太田母斑は全く違う病態であることは明らかです。 しかし、ADMの正体については未だ不明な点が多いのが現状です。
肝斑と診断され治療されるADM
ADMは好発部位が似ていることから、よく肝斑と間違われます。 典型的なADMに対して、何年もトラネキサム酸を内服していたり、延々とフォトなどの光治療(IPL)やレーザートーニングなどの肝斑治療をされている例を、本当に頻繁に目にします。 これらの治療は、ADMにとってはほとんど無効ですので、患者様がとても気の毒です。 確かに、好発部位は似ていますが、発症年齢も違いますし、何より見た目(形・色調)が全く異なります。 しみの診療に慣れていれば、ADMを見分けるのはとても簡単です。 ADMは肝斑と合併している例も多いですが、このような場合でも注意深い観察と丁寧な問診をすることで、診断はそれほど難しくないことがほとんどです。 しみの治療は、診断がとても重要なのです。
目の下のクマに見えるADM、意外と盲点!
ADMの一番の好発部位は、上のイラストのように両側頬上部の外側です。 ただし、意外と多いのが、目の下のクマの部位です。 この部分は、眼窩縁にあたり、凹んでいるだけでなく、通常でも若干色素沈着を起こしている場合が多く、くすんで見えますが、この部位にADMが好発します。 ここにADMがあると、目の下のクマがよりくすんで目立って見えます。 この部位は意外と盲点のようで、ADMの診療に慣れているであろう医師でも見逃している例を見かけます。 ADMの場合、Qスイッチルビーレーザー以外の治療が、すべて無効になりますので、診断がとても大切なのです。
ADM治療の実際
【もっと早く治療すればよかった!】 ADMの治療が完了したとき、たいていの患者様が抱かれる感想です。 それくらい、ADMの治療満足度は、他の色素性疾患に比べても、とても高いといえます。 なぜなら、治療の確実性が極めて高く、通常は再発もないからです。 つまり、一度取れたら取れたっきり、もう一生ADMに悩まされる可能性はゼロに近いのです。 ADMに最適な治療法は、Qスイッチレーザーです。 フォトなどの光治療(IPL)や他のマイルドなレーザー治療(レーザートーニングなど)は、ADMそのものには通常無効です。 皮膚の深い部分(真皮)に存在するメラニンを確実に破壊できるパワーはないからです。 当院では、Qスイッチレーザーの中でも、メラニン色素に対して最も選択性の高いQスイッチルビーレーザーを使用して治療を行います。 ただ、ADMの場合、Qスイッチルビーレーザーを用いても1回の治療のみでは除去しきれないことが多く、数回の治療を必要とすることが多いです。 当院では、治療効率やリスクなどを考慮し、治療間隔を6か月以上としています。 一般的にとても難しいとされる、ADMと肝斑の合併例も治療実績が多くあります。 是非ご相談ください。
ADMをきれいに消すのは意外と難しい?
QスイッチルビーレーザーはADMにとても良く効きますが、ただ照射さえすれば、きれいに消えるというものではありません。 そこには、ADMならではの治療の難しさがあるのです。
・最適な照射パワー調整が老人性しみなどの治療より難しい ・密集したADMを最小限のダメージでいかに正確に照射することの難しさ ・治療後起こる炎症後色素沈着(戻りシミ)の管理と治療間隔 ・肝斑の合併においての肝斑の管理 など
これら考慮せずに治療した場合、瘢痕化(きずあとが残る)・色ムラ(白抜け、白斑化)・巨大な炎症後色素沈着などの合併症を引き起こす可能性があります。 きれいに消えなければADM治療の意味がなくなってしまいます。 どの合併症も、ADM自体が問題ではなく、照射方法・照射出力・治療間隔などへの配慮が足りないことが原因で起こってくることが多いと考えています。 当院では、ADMをきれいに消す方法を追求しています。 当院の治療法については、診察時に詳しく説明いたします。
肝斑が合併していても治療可能な場合が多い!
ADMに有効なQスイッチルビーレーザーは、肝斑に対しては通常禁忌とされています。 したがって、肝斑を合併するADMの治療は、一般的にとても難しいとされています。 確かに、肝斑が合併していない場合の治療と比べると、炎症後色素沈着(戻りシミ)や白斑化(白抜け)のリスクが高くなりますので、より注意深く正確なレーザー照射技術や慎重な治療前後の管理が必要になりますが、不可能ではありませんので、あきらめる必要はないと考えます。
ADMにフォトシルクプラスは有効か?
フォトシルクプラスなどの光治療(IPL)は、表皮の色素性病変を対象に設計されているため、真皮性であるADMそのものには無効だと考えられます。 したがって、ADMを消すために延々とフォトシルクプラスをするのはあまり意味がありません。 ただし、状態によっては、ADMのQスイッチルビーレーザー治療前のフォトシルクプラスが有効な場合があります。 ADMは、老人性しみやそばかす、くすみなど表皮の色素性病変と合併していることが多く、これらの表在性のしみを、フォトシルクプラスにより、はじめにある程度除去することで、真皮にあるADMだけがはっきりと残存し、認識しやすくなるからです。 また、フォトシルクプラスを事前併用することは、Qスイッチルビーレーザーの治療効率を上げることにも役立ちます。 Qスイッチルビーレーザーはメラニン色素に反応します。 表皮にたくさんのメラニン色素があれば、レーザーはそこで反応してエネルギーを使ってしまい、真皮にある肝心のADMに反応しにくくなります。 ADMなど真皮性の病変にQスイッチルビーレーザーを照射する場合、表皮のメラニン色素は少ない状態であることが理想の条件です。 そのために、光治療(IPL)を使用することは有意義なのです。
治療回数、治療間隔、トータルの治療期間は?
レーザー治療回数は通常2~3回の場合が多いです。 治療間隔は、通常6か月以上としています。 アフターケアの期間を含めると、9か月~1年半くらいがトータルの治療期間として考えられます。 しみやアザをきれいに消すには、「いかに少ないダメージで効率よく色素を破壊するか」が勝負どころです。 そのために大切なのは、治療間隔と治療後色素沈着の管理だと考えています。 治療間隔を長めに設け、アフターケアをしっかり行うことで、合併症を避け、より少ない回数で治療を終わらせることができます。 Qスイッチルビーレーザーの治療後は、表皮に色素沈着が起きることがあり、この色素沈着が残っている期間に次のQスイッチルビーレーザーを照射しても、表皮に残っている色素沈着に反応してしまい、肝心のADMに対する治療効果が下がってしまいます。 これでは、治療の意味がありませんし、色素沈着に照射することでまた新たな色素沈着を生み…という悪循環に陥り、肌のダメージが強くなり合併症が起きる可能性が高まるのです。 一般的に、Qスイッチレーザー後の炎症後色素沈着は3~4か月と言われていますが、実際にはもう少し長いことも多いです。 この炎症後色素沈着がない状態で次の治療をすることが重要なのです。 ADMの治療はいわば「一生もの」であり、うまくきれいに治れば、一生ADMに悩まされることはありません。 しかし、前述したような合併症も「一生もの」になり得るのです。
ADMは健康保険で治療できるのか?
当院ではADMに対してのQスイッチルビーレーザーは他のしみ治療同様、自費診療とさせていただいております。 その理由は以下の通りです。
・太田母斑のQスイッチルビーレーザー治療は保険適応があります。 ADMは太田母斑とは全く異なる独立疾患であり、厳密には保険適応がありません(厚生局確認済)。 ADMの病名でも状況により保険治療が認められる場合もあるそうですが、原則は自費診療だと考えています。 当院では、ADMに太田母斑などの病名をつけて保険診療を行うことはしておりません。
・保険診療は、アフターケアに使用できる内服薬や外用薬の種類などに制限があります。
前述したようにADMの治療では治療後色素沈着の管理がとても大切です。 確実にきれいに治すためには、このような制限が障害になる可能性があります。 ADMの治療はいわば「一生もの」ですので妥協することなくやりたいものです。