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炎症後色素沈着(PIH、戻りシミ)とは?
炎症後色素沈着は、皮膚が外傷や熱傷など、何かしらのダメージを受けた場合に、強い炎症が起こり、一時的に色素細胞が活性化され、色素沈着を起こしたものです。
転倒して怪我をした後や、ヘアアイロンでの熱傷後などが多いです。
また、しみ取りレーザー治療後なども同様の炎症後色素沈着(戻りしみ)を起こす場合があります(レーザー治療後の経過について)。
炎症後色素沈着の発生機序は完全に明らかにされていませんが、炎症によって生じるシグナルが色素細胞を活性化させることが原因だと考えられています。 色素細胞が活性化し、メラニン色素が活発に産生されると、お肌が本来備えている色素の代謝機能の能力を超えてしまい、表皮にメラニン色素が溜まった状態になりるため、しみが発生したように見えます。
原因である炎症が治まれば、メラニン色素の産生も正常化していきお肌の代謝機能により色素沈着は徐々に薄くなっていきます。
したがって、通常は半年以内、長くても1年以内には自然消失するのが一般的な認識ですが、受けたダメージの状況や、アフターケアの仕方によっては長く残存してしまうこともあります。
そうならないために、必要に応じて適切なアフターケアをしていくことが重要です。
触ったりこすったりすることが色素沈着が治らない原因になることも?
炎症といっても様々で、やけどや外傷といった、分かりやすいものばかりではありません。
注意すべきは、もっと微細な炎症です。
診療していて、よく問題になるのは、摩擦(こする刺激)による色素沈着です。
1回の摩擦で起こる炎症は微々たるものですが、これが日常的に繰り返されると、慢性的に持続する炎症となります。
この問題点は、炎症の原因が日常的に繰り返されることです。
やけどや外傷などは、日常的に繰り返されることは非常に稀であり、炎症は受傷後一定期間が過ぎれば必ず収束します。
しかし、触ったりこすったりする摩擦で起こる微細な炎症は、患者様ご本人が自覚していないことも多くため、日常的に繰り返しやすいのです。
炎症の原因がなくならないので、炎症が収束することがなく、色素沈着も自然消失しにくくなります。
イラストは、ニキビ跡の炎症後色素沈着を表しています。
もともとは、小さなニキビ、もしくはニキビ跡だったものですが、それを日常的に触ってしまうことで、慢性的な摩擦による炎症を起こしてしまい、より大きな炎症性色素沈着を起こしてしまうのです。
このような例は、日常の臨床現場でよく目にします。
ニキビ跡の赤み・色素沈着は、ぜひご相談ください!
炎症後色素沈着は老人性しみとどう違う?
老人性しみは、表皮のターンオーバーに異常を来し、メラニン色素を多く含む異常な角層細胞(ケラチノサイト)が脱落せずに異常に蓄積した状態です。
つまり、老人性しみの正体は、異常な角層細胞の塊(一種の良性腫瘍)だと言えます。
この状態が自然に改善することはほとんどなく、この角層細胞の塊を除去することが治療となります。
これに対して炎症後色素沈着は、炎症による色素細胞の一時的な活性化のみです。
老人性しみのように、異常な角層細胞の塊などはありませんので、お肌の色素代謝が正常であるならば、炎症が治まれば自然と軽快していくのです。
炎症性色素沈着の程度は何で決まる?
一般的に炎症性色素沈着の程度(濃さ)は、原因となる炎症の程度(強さ・期間の長さ)によると考えられています。
確かに炎症の程度が強ければ、色素沈着も起きやすいでしょう。
しかし、臨床現場で多くの炎症色素沈着を診ると、炎症の程度だけが炎症性色素沈着の程度を決めるものではないことが分かります。
肌には、色素沈着が起きやすいタイミング(周期)があるように思えます。
美容皮膚科にて一番多く診る炎症後色素沈着は、老人性しみのQスイッチルビーレーザー後の色素沈着(戻りシミ)です。
一般的に、しみの組織を破壊できる最小限の出力(ダメージ)でレーザーを照射し、治療後はできるかぎり刺激を避けることが、色素沈着(戻りシミ)を避ける方法だとされています。
しかし、実際には、理想的な治療条件・治療後経過にも関わらず濃い色素沈着を起こしてしまったり、また逆に、濃い色素沈着が起こるであろう悪条件(肝斑の存在など)での治療にも関わらず、全く色素沈着が起きない、というような予想に反する状況がしばしば起きるのです。
色素細胞(メラノサイト)が、メラニン色素を産生するのにいくつかの段階があることが知られています。
どの段階で、炎症が起こるかによって、色素細胞の活性化の程度が異なるものと考えています。
色素細胞のメラニン産生の段階は、皮膚の外観などからは判断できないので、色素沈着の程度はある程度「運による」といえるのです。
出るときは出る、出ないときは出ないのです。
また、身体の部位により色素沈着の出やすさ・程度が異なることも明らかです。
一般的に、色素細胞の活性が低い部位や、血流や色素代謝が良い部位は、色素沈着が起きにくいとされています。
炎症後色素沈着の治療
・炎症を収束させること(⇒患部への刺激を避けること)
・色素細胞の活性化を抑えること
・肌の色素代謝を促進すること
炎症後色素沈着に対する治療の大前提は、炎症の原因を除去させ炎症を収束させることです。
いくら治療していても、炎症が継続している限り、色素細胞の活性化も継続し、色素沈着が消えることはありません。
前述したように、炎症はやけどや外傷など分かりやすいものばかりではありません。
日常生活における微細な摩擦などの刺激は、患者様自身がそれを炎症の原因として認識して、改めない限り改善させることは難しいでしょう。
炎症を収束させ、刺激をさけることにより炎症後色素沈着は自然軽快することが多いですが、より確実になるべく早く改善させたい場合、積極的に治療を行う場合もあります。
ハイドロキノンなどの外用薬によりメラニン色素の産生を抑制しつつ、トレチノインなどの外用薬を使用したり、場合によってはレーザーやフォトシルクプラスなどの光治療を用いて肌の色素代謝を促進させ、メラニン色素の積極的な排出を図ります。
ここで注意しなければならないことは、このような積極的な治療が、患部に刺激を与え、新たな炎症を起こさないようにしなければならないことです。
これはとても繊細な調節が必要になりますので、定期的に通院しながらの治療が必要となります。
炎症が治まっても自然消失しない炎症後色素沈着
炎症後色素沈着は、炎症が治まれば色素細胞の活性化も治まり、肌の色素代謝機能により自然軽快していくというのが一般的な認識です。
しかし、臨床の現場ではそうならないことも多々あります。
ひとつは、しみのレーザー治療後に起こる色素沈着=いわゆる戻りシミです。
老人性しみなどをQスイッチレーザーで治療した場合、患部は一時的に軽いやけどの状態になりますので、ときに色素沈着(戻りシミ)が起きます。
この色素沈着が自然に軽快しない例が、しばしばあるのです。
老人性しみの原因ははっきり分かっていませんが、肌の代謝(ターンオーバー)の異常だと推測されています。
もともと、代謝が悪い部分に新たに発生した色素沈着が消えにくいのは当然といえば当然のことのように思えます。
そのため、当院では、老人性しみのレーザー治療後には、ハイドロキノンやトレチノインなどの外用薬を用いて、炎症後色素沈着の色素代謝(ターンオーバー)をサポートします。
そして、もうひとつは、「深い色素沈着」です。
通常、炎症後色素沈着は表皮(肌の浅い層)に生じますが、何らかの原因で真皮(肌の深い層)に生じてしまうことがあります。
表皮は代謝しているので、自然な色素排出が期待できるのですが、真皮はそのような代謝機能がないか、あってもとても遅いです。
この場合は、先に挙げた外用薬でも効果が薄いので、原因となった炎症によるダメージ回復の期間(1年ほど)を待ってから、Qスイッチレーザーでの治療が必要になることもあります。